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5話 家族同様の絆、皇帝が授けた「皇子」の称号

Author: みみっく
last update Last Updated: 2025-12-25 11:42:31

 そんな父親の様子を見て、ミリアの表情がぱっと華やいだ。彼女は誇らしげに、そして深い愛情を込めた熱い眼差しで俺を見つめてくる。その瞳は、俺が下した決断が、ただの情けではなく自分たちを守るための峻烈な意思であることを確信しているようだった。

「そうか……やはり気に入ったぞ、ユウヤ」

 皇帝は腹の底から響くような重厚な声で、満足げに喉を鳴らした。その鋭い眼光には、甘さの中に冷徹な合理性を潜ませた俺の裁定に対する、確かな興味と好意が宿っている。

 「どうした! 何をしている! 次期皇帝が刑を言い渡したのだぞ! さっそく刑を執行せよ。どうした? 刑を執行できる兵も不足しているのか?」

 広間の空気を震わせる雷鳴のような喝声に、立ち尽くしていた者たちが弾かれたように肩を震わせた。

 国王は、俺の発言をただ黙って聞いていたわけではないのだろう。この場における権力の頂点である皇帝が、俺の言葉をどのように受け止め、どのような判断を下すのか。それを、固唾を呑んで見極めていただけに違いない。皇帝の言葉が絶対的な決定事項となった瞬間、国王の額にはぶわりと脂汗が浮かんだ。

 「は、はっ! 直ちに、直ちに執行いたします! これなる者たちを連れて行け!」

 慌てふためいた国王が、傍らの近衛兵たちに裏返った声で指示を飛ばす。重い鎧を鳴らした兵士たちが、青ざめて腰を抜かした元貴族たちを無慈悲に引き立て、広間の外へと連行していく。床を擦る靴の音と絶望に満ちた呻き声が、遠くへ消えていった。

 「よし。ミリアとユウヤの顔も見れた事だし、そろそろ帰還をするか」

 皇帝は満足そうに頷くと、身に纏った豪奢な外套を重厚に翻して、ゆっくりと玉座から立ち上がった。その一挙手一投足から溢れ出す圧倒的な覇気は、まるで広間の酸素を奪い去るかのような圧迫感を伴っている。

 「そうですの? では、お気を付けて。お父様」

 隣に座るミリアは、椅子から立ち上がると、優雅な仕草で静かに一礼した。さっきまで父親を冷たく嗜めていたとは思えないほど、その微笑みは温かく、愛娘としての慈しみに満ちている。

 皇帝が大きく一歩を踏み出すと、周囲に控えていた王族や、威厳を誇っていたはずの役職者たちが、申し合わせたように一斉に起立した。

 衣擦れの音だけがさざ波のように静かに響き、誰もが深く腰を折り、最高位の権力者へ畏敬の念を込めて深く深く頭を下げた。皇帝の背中が遠ざかるにつれ、張り詰めていた空気がわずかに緩み、広間には心地よい緊張の残滓と、静寂だけが取り残された。

 ミリアのそっけない、流れるような軽い返事に、皇帝の厳格な面持ちが一瞬だけ崩れた。その瞳に過ったのは、強大な帝国の主としての顔ではなく、年頃の娘に突き放された父親としての寂しげな色だ。だが、彼はそれを言葉にすることなく、すぐに鉄の仮面を被り直した。周囲の視線を意識した、支配者としての威厳の維持というやつなのだろう。

 そんな彼の姿を見て、元日本人の俺は少しばかり良心が痛んだ。親子のやり取りとしては、少しばかり救いが必要な気がしたのだ。せめて俺だけでも、名残惜しさをアピールしておこうと思い、寂しげな表情を作って問いかけた。

「もう行かれるのですか?」

 その一言が耳に届いた瞬間、皇帝の表情がぱっと明るくなった。まるで暗雲が晴れ、陽光が差し込んだかのような、隠しきれない喜びが顔全体に広がる。

「こう見えても忙しい身なのでな!」

 その声には、先ほどまでの冷徹さは微塵もなく、どこか誇らしげな響きさえ混じっていた。俺はさらに畳みかけるように言葉を続ける。

「お父さんに、お会いできて光栄でした」

「はっははは……お前は、もう家族同様なのだ。そう緊張をする事はないぞ。また会おう! 我が皇子よ」

 皇帝は豪快に笑い飛ばし、俺の肩を力強く叩いた。その手からは、厚い信頼と、実の息子に向けるような温かな情愛が伝わってくる。

「え? あ……は、はい……お気を付けて、お父さん」

 思わず口をついて出た言葉に、自分でも驚く。だが、去りゆく皇帝の背中を見つめていると、不思議と「お父さん」という呼び名がしっくりときている自分に気づいた。

 皇帝は最後にもう一度、満足げに鼻を鳴らすと、護衛を引き連れて悠然と広間を去っていった。その足取りは、先ほどよりもどこか軽やかで、弾んでいるようにさえ見えた。

 精鋭の近衛と護衛を連れて、嵐が去るかのように皇帝が謁見の間を出ていった。後に残されたのは、皇帝の峻烈な威圧感に当てられて、魂が抜けたように項垂れる元貴族たちと、ただ立ち尽くすユウヤたちだけだった。

「お父様も、ユウヤ様の事を気に入られましたわね♪」

 ミリアは、春の陽だまりのような微笑みを浮かべ、ユウヤの腕にそっと寄り添った。その柔らかな感触に、ようやくユウヤの緊張も少しずつ解けていく。

「そうなのかな……?」

 ユウヤは、去り際の皇帝の背中を思い返し、頬を掻いた。

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